仙台高等裁判所 昭和38年(ネ)377号 判決 1966年3月01日
控訴人
酒井軍次
被控訴人
福島県教育委員会
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和三十七年三月三十日付でした控訴人に対する免職処分は、無効であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の法律上、事実上の陳述、証拠の提出、採用、認否は、控訴代理人において、
「本件免職処分は地方公務員法第二十八条第一号及び第三号によるものとされているが、右免職は同法第二十九条の懲戒名職とは異なり、道義的責任を追求する意味を含むとは解されないから、右第二十八条第三号の「その職に必要な適格性を欠く」とは、本人の素質、能力、性格からいつて地方公務員たるに適さない色採が付着していて、それが一朝一夕には抜けがたい持続性を持つている場合と解すべきである。
しかるに南会津高等学校長目黒嘉祐が被控訴人に対してした控訴人の不適格性についての報告(これに基づいて本件免職がなされたもの)は、僅か数カ月の出来事について作成されたものにすぎないのであるから、何等不適格性についての持続性のあることを証明するものではなく、かえつて控訴人は、教員生活二十数年を平穏無事に過してきており、教員の適格性は明白に証明されている。」と述べ、
証拠として甲第五一乃至第五五号証を提出し、当審証人園部国夫、同関保雄(第一、二回)、同渡辺正、同酒井みよ子(第一、二回)、同渡辺国市、同星文孝、同渡辺ハルノの各証言及び当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第六号証の成立を認め、
被控訴代理人において、
「控訴人の右主張事実は否認する。」
と述べ、
証拠として、乙第六号証を提出し、原審証人五十嵐俊一、当審証人渡辺貞夫の各証言を援用し、甲第五一乃至第五五号証の成立を認めた。
ほかは、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
理由
控訴人が福島県立南会津高等学校の教諭であつたところ、昭和三十七年三月三十一日付で、被控訴人より、地方公務員法第二十八条第一項第一号及び第三号の規定に基づいて、免職処分を受けたこと、右免職処分の事由として、控訴人が学校長の命令に従わないで職務を怠つたこと、校長の承認なく独断で校務を処理したこと、及び勤務成績が極めて不良であることが被控訴人によつて指摘されていたことは、いずれも当事者間に争いがない。
控訴人は、まず本件免職処分は、その事由として挙げられた右の各事実が全く存在しないのにこれありとしてなされたものであるから、そのかしは重大明白であると主張するが、この点に関する原審並びに当審における控訴本人尋問の結果(原審の分は第一、二回)は、原審証人目黒嘉祐、同近藤金弥、同神岡日吉、当審証人渡部貞夫の各証言に照し信用出来ず、また当審証人園部国夫、同関保雄(第一、二回)、渡辺国一、同星文彦、同渡辺ハルノの各証言は、いずれも控訴人の昭和三十六年三月以前における状況に関するものにすぎないので、これらによつては、控訴人主張の事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証言はない。却つて原審証人目黒嘉祐の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一号証。及び原審証人目黒嘉祐、同近藤金弥、当審証人渡部貞夫の各証言を総合すれば、前記免職処分の事由は、いづれも存在すると認められる。
次に控訴人は、南会津高等学校長目黒嘉祐が作成した控訴人の教師としての不適格性についての報告は、僅か数カ月間の出来事について作成されたものにすぎないから、何ら不適格性についての持続性を証明しうるものではないと主張するが、たとえ数カ月の出来事に基づくものであつても、不適格性の持続性を証明することは必ずしも不可能であるとは断じがたく、原審証人近藤金弥、当審証人渡部貞夫の各証言に徹すれば、本件報告の内容は、充分に不適格性の持続性を証明したものと認めることができる。よつて控訴人の右主張も理由がない。
その余の争点についての判断((1)免職辞令の交付がその作成日付前であつたこと。(二)免職処分が教育長専決規定に基づいてなされたこと。(三)本件訴訟が訴願前置の要件を欠くこと。についての判断)はいづれも原案の判断と同一であるから、原判決理由中(三)乃至(五)の記載部分をここに引用する。
よつて控訴人の請求は理由がないので、これを棄却した原判決はは正当で本件控訴は理由がない。民事訴訟法第三八四条、第九五条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。